※ その1 からの続きです。(エントリが長すぎてポストできなかったので分割しました。)
[インフラから見た場合のシステム形態の分類]
さて、前述の図は、マイクロソフトが提供する製品やサービスを示したもの(=すなわちマイクロソフトの立場で書いたもの)ですが、今度はこれを、ユーザや SIer などの観点から見た図、すなわち利用方法や利用形態の観点から整理した図に描き直してみたいと思います。
まず、前述の図だと、システム形態としては「オンプレミスか、Microsoft が提供するサービスを使うか」の二択のように見えます。しかし、実際には、データセンタ事業者や SIer が Microsoft からパッケージ製品を購入し、これをクラウド型のサービスに仕立てて、エンドユーザや他の SIer に販売する、というモデルも考えられます。このため、インフラ的な観点からすると、クラウドコンピューティング時代におけるシステムの形態は、大まかに以下の 3 つに大別できます。
(注意) 上記の図では、敢えて「パブリッククラウド」「プライベートクラウド」という用語を使っていませんが、これは、パブリックとプライベートクラウドの境界線の定義が曖昧であるためです。また、どこからがクラウドでどこまではオンプレミスなのか? といったことも同様の議論で、これらは言葉の定義の問題でしかない、と考えます。これらの議論に深入りすることは技術的に見た場合には不毛だと思うので、この資料では敢えて別の用語として、「オンプレミス型」「ホスタークラウド型」「メガクラウド型」といった用語を使うことにしました。この点は、FAQ にて後述します。
さて、クラウドコンピューティングに関しては、「クラウドコンピューティングが発展すると、中小のデータセンタ事業者が最も痛手を受ける」と言われます。この発言の意図するところは、「中小のデータセンタではメガクラウドのようなスケールメリットを得ることができないため、相対的に高価になってしまい、ビジネスが縮小する」、というものだと思います。しかし、個人的にはこの考え方に懐疑的です。というのも、前述したように、メガクラウド型のサービスにはカスタマイズ性(柔軟性)に難があることが多く、コストが安くても小回りが効かないことが多いからです。特に、業務アプリケーションの世界では、既存のシステムとの連携性、3rd party 製ミドルウェアの導入、高い SLA 要件などなど、個別最適化が求められる領域が多々あり、お仕着せ型のサービスではうまくシステム構築できないケースが多いと思います。逆にいえば、こうした個別要件への柔軟かつ高度な対応性という部分がホスター型クラウドの大きな魅力であり、そうであるからこそ、今後もデータセンタ事業者に対するホスター型クラウドのニーズは多々あるのではないかと思います。ただし、データセンタ事業者にもより一層のコスト削減圧力が働くでしょうから、自動プロビジョニングをはじめとする各種のクラウド技術を適用して、より一層高度なサービスを提供していくことが求められるようになると思います。
[利用者から見た場合のシステム形態の分類]
では次に、クラウドコンピューティング時代が到来することによって、利用者側にはどんな選択肢が増えるのかを考えてみたいと思います。
例1. .NET カスタムアプリケーションを開発し、運用する場合
この場合、従来はオンプレミス型で開発するか、またはホスタークラウド型で開発するかのいずれかを使うケースが多かったと思います。しかし、ここに新たにメガクラウド型で開発する、すなわち Windows Azure Platform 上で開発する、という選択肢が加わることになります。
ただし、先に述べたように、この 3 つの方法は等価ではありません。例えば、図だけ見ると、ホスター型で作られた .NET アプリケーションはそのままメガクラウド型に移行できそうに見えます。しかし、Windows Azure Platform は、データベースや OS の設定を自由に変更できません。このため、必ずしも簡単に移行できるというわけではないはずです。
また、現実的なシステムでは、これらを併用するハイブリッド型システムになることも多々あると思います。例えば、SLA 要件の厳しいシステムでは、基本的にはオンプレミス型やホスター型の形で作成しつつも、災害対策用のバックアップシステムとして Windows Azure Platform を併用する、という形態が考えられます。必ずしもこれらの選択肢は背反的なものではない、と考えるのが適切でしょう。
例2. メールサーバ(Exchange)を使いたい場合
メールサーバを使う場合も、メガクラウド型の SaaS サービスを使う方法、すなわち BPOS (Exchange Online)を使う、という方法が追加される形になります。また、ホスター型クラウドを使う場合には、IaaS 型だけでなく、HMC (Microsoft Solution for Hosted Messaging and Collaboration)を用いて作られた SaaS サービスを使う方法が考えられます。
※ (参考) HMC とは、簡単に言えば、事業者が Exchange サーバを SaaS サービスとして再販するために提供している、マイクロソフトのソリューションのひとつです。
ホスタークラウド型の SaaS と、メガクラウド型の SaaS サービスは、図だけ見ると同様に見えます。このため、一見するとあたかもホスタークラウド型は、今後、メガクラウド型の BPOS に取って変わるように見えますが、この考え方は正しくありません。というのも前述したように、メガクラウド型のサービスの多くは事実上カスタマイズが不可能であり、これは BPOS (Exchange Online)にも当てはまります。このため、ホスター型クラウドは、BPOS では対応できないようなきめ細かなサービスにより差別化が行われる形になります。お客様への提案の際には、まず BPOS はカスタマイズできないという前提条件の元で、BPOS の提供サービスに合致するか否かをまず判断します。そして合致しない場合には、BPOS をカスタマイズしようと考えるのではなく(それは無理です;)、ホスター型クラウドやオンプレミス型のいずれが適切なのかを考えていくことになります。
というわけで、このようにメガクラウド型のサービスという選択肢が増えることにより、ユーザから見たシステム構築手法も自ずと選択肢が増えることになります。しかし、なんでもかんでもメガクラウド型サービスを使うようになる、と考えるのは誤りです。システム要件に応じて、適切な使い分けあるいは併用をしていく必要があります。
[クラウドコンピューティング時代のビジネスチャンス]
では最後に、ここまでの話をまとめる目的で、クラウドコンピューティング時代の到来により、様々な事業者にどのようなビジネスチャンスが生まれてくるのかを考えてみます。それを考えることにより、新たなビジネスチャンスも見えてくるはずです。ここではご参考までに、私が所属する、マイクロソフトコンサルティングサービス(MCS)が提供しているサービスとして、どのようなものがあるのかについても軽く触れてみたいと思います。おそらく MCS が提供しているコンサルティングサービスを見ると、ビジネス的な狙いどころも明らかになってくると思います。
① オンプレミス型が中心のエンドユーザ企業の場合
オンプレミス型で構築したシステムを運用することが中心になっているエンドユーザ企業の場合、クラウドコンピューティング時代の到来により、以下のような選択肢が新たに生じることになります。
※ (参考) DDC Toolkit というものをご存じない方も多いと思いますが、これはデータセンタ仮想化のためのツールセット(いわゆるライブラリ)であり、それ単体で導入可能なパッケージ製品にはなっていません。このため、DDC Toolkit を利用する場合には、実際には UI などの部分についてかなりの作り込みが発生します。Windows Azure Platform のような環境をポンと自社内に構築するためのお手軽ツールキットではありませんので、ご注意ください。
② データセンタ事業者の場合
クラウドコンピューティング時代の到来により、最も既存ビジネスに影響を受けるのがデータセンタ事業者である、とよく言われます。確かにそれはその通りですが、それは必ずしもビジネスの縮小を意味しないと思います。クラウドコンピューティング時代の到来により、以下のようなビジネスメリットやビジネスチャンスが生まれてくる、と思います。
実際、現場のエンジニア側から見ると、ミドルウェア部分の運用監視をデータセンタ事業者側に移管できる、というのは極めて大きなメリットであることが多いです。特に、Windows サーバ系のデータセンタでは、OS のベースイメージのみが提供されるという簡易なサービス提供にとどまっている場合が多く、IIS や SQL Server などのミドルウェアの運用や監視まで含めたサービスが提供されると、利用者側にとっては大きなメリットとなるはずです。(ちなみに、どのようなサービスを作ればよいのかに関しては、Windows Azure Platform が提供する各種のサービス(例えば SQL Azure データベースサービスなど)が参考��なるはずです。)
③ ISV(独立系ソフトベンダー)の場合
パッケージ製品などを作成している ISV の場合、従来から ASP 化(アプリケーションサービスプロバイダ化、すなわちオンラインサービス化)によるサービス拡販などが行われてきたかと思います。このような場合には、以下のようなビジネスチャンスが考えられるかと思います。
なお、Windows Azure Platform 上で動作するアプリケーションの販売方法は 2 種類ある、ということを知っておくとよいと思います。ひとつは、自社で Azure のライセンスを購入し、アプリケーションを動作させ、これを SaaS として販売するモデル。もうひとつは、自社のアプリケーションを Windows Azure Platform 対応製品として、パッケージ製品として販売するモデルです。(後者の場合、お客様は自前で Windows Azure Platform のライセンスを購入し、そこにアプリケーションを自分で配置して使う形になります。) Windows Azure Platform では、どちらの販売方式も可能になるようにライセンス形態が設計されています。
④ SIer (システムインテグレータ)の場合
おそらく、クラウドコンピューティング時代の到来によって最も大変なのが、SIer になると思います。確かに、お客様から受注してシステムを構築する、というビジネスの在り方そのものに大きな変化はないでしょうが、システム構築の際に、クラウド型サービスを活用するという選択肢が加わることにより、設計のパターン数が非常に増えることになります。
以上、様々な事業者ごとのビジネスチャンスや狙いどころについて解説してみましたが、このように、クラウドコンピューティングやその周辺技術をどのように自社に生かしていくのかは、事業者の立ち位置やサービス内容によって全くといっていいほど異なります。自社のコアコンピタンス(最も強いところ)を見定めたうえで、クラウド技術をどのように生かしていくのかという、視野を一段高くした状態での検討作業が必要になる、と言えるでしょう。
※ 次のエントリへ続きます。(長すぎてポストできなかったので分割しました。)